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ギルド内は喧騒に包まれていた。
理由は単純。街の近くの農村が強力な飛竜に襲われたからだ。
情報を持ち帰ってきたのは、農村からの依頼で害虫を駆除していた新米ハンター達4人。彼等は負傷しながらも村人数名を街まで連れ帰った。新米にしては上々過ぎる仕事だとマティアは思いながら、彼等の手当てをしている。
このギルドが現在抱えている狩人は負傷した4人を含め数名の新米狩人。
元々大した依頼もないが、細々した依頼に対応するために設立されたものであるし、何より設立して間もない為、G級はもとより、上級ハンターもまだおらず、ギルドナイトもまたたった1名しかいない。
マティアの後ろではギルドマスターに村人達が詰め寄り、各々が汗と涙でぐしゃぐしゃの顔で何かを訴えているが、現状このギルドからは強力な飛竜を討伐出来る〈ハンター〉がいない。
ふと村人達に子供が混じっているのを見て彼女は歯噛みする。
彼女――。マティアこそがこのギルドのギルドナイトだった。
ギルドの受付嬢の中には有事の際に所属ギルドを守る為のギルドナイトを兼任している者がいる。彼女もそんな1人なのだが、1人しかいないギルドナイトがギルドの許可もなく街を離れて飛竜を退治には行けない。
もし勝手に武器を担いで飛び出して、その間に街で何かあれば――。
他のハンターも出払い、残っているのは負傷した4人。この街は衛兵だって少ない。防壁なんて未完成。ギルドの連中はこんなイレギュラーを想定しなかったのか、と。そこまで考えてマティアは自らの苛立ちの原因を知る。
「私だって考えてなかったわねぇ。暇、暇って」
手当てを終え、マティアは立ち上がり、その足は自然とギルドのカウンター奥の部屋へと向かう。
「待つんじゃ!許可が降りておらんし、お前1人では……」
そんな彼女を視界に入れたマスターが制止する。しかし
「まだ村には人が残ってるんでしょう?ならいつ来るかわかんない増援待ってる暇はないんですよぉ」
さらに苛立ちを高め、マティアは叫ぶ。
「大体ギルドが悪いんです!人もろくに集めないで……そういえば今日来る予定のバカハンターってのはどこで油売ってんですか?!そのバカ共が来てないからいけないんでしょうが!!」
怒号が響き渡った。ギルドの中にも外にも。
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