序章・訪れ

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序章・訪れ

 雨の強い朝だった。  ギルドの受付嬢、マティアはクルクルと羽根ペンを回しながら、ぼんやりと入り口を眺めている。  彼女は暇だった。何せこの街のギルドは先日新しく出来たばかり。今までは隣街のギルドにカバーされていたのだが、最近増え続ける依頼に対処仕切れなくなり、こちらにもギルドが新設されたのだが……。  ハンターの数が少ないのだ。各地に募集をかけているものの、集まって来るのは仕事にあぶれた新米が少数。 「そりゃそうよね……」  腕利きのハンターはギルドが手放したくはないし、またハンターの方も、慣れたギルドを離れて仕事の少ない新設ギルドに来てくれる奇特な人は少ない。  幸いにして、今のところ大した依頼もなく、〈ギルド的には〉それほど困ってはいないが、もし難度の高い依頼が舞い込んで来たら……。 「まぁ、今一番の問題は、私が暇って事何だけどぉ」  マティアはポツリとボヤく。所属している数人の新米ハンターも蜂(ランゴスタ)退治やら、ランポス種の群れ討伐に出ており、やることもない。  来ている依頼書にざっと目を通して溜息を吐く。 「多いには多いけど、何かしらの雑用みたいな仕事ばかりね……」 来ている仕事は難度の高いものでも精々がドスランポス討伐程度のものだ。しかし、依頼自体の数は多い。それが新設された理由でもあるし、新人養成所扱いというか。  キィッ、と音がして、入り口の扉が開く。 「参った参った。こんなに雨足が強くなろうとはの」  小さな男の子、の様に見えるが、彼はこのギルドのれっきとしたギルドマスターである。竜人で、何年生きているかはわからないが、マティアの十倍どころではないだろうか。 「街長のとこに行っておったのだが、ちと用事があって帰って来たのじゃ」  マスターは言いながら煙管に火を付け、吸い始める。その光景は何かと問題になりそうではあるが、突っ込んだら機嫌が悪くなるのでマティアは突っ込まない。 「実は今日、腕利きのハンターが来ると通達があったのじゃが……その様子ではまだ来ておらん様じゃな」  マティアはこんな所に来てくれる奇特な人もいるのかと感心する。それとほぼ同時に、ドサドサドサッ、とクエスト専用口から音が聞こえて来た――。
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