第三章

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ハッとして目を開けると、私は克己の腕の中にいた。 顔を上げると、5㎝程先のところに克己の顔がある。 眼鏡の奥の瞳が私を見つめていた。 私はその顔の近さと、弱さを見透かされたことで自分でもわかる程に赤くなった。 「!!…放してッ…!」 その何もかもを貫き通すような視線に耐え切れず、ドンッと彼の体をつき離した。 「…ッ、あなたなんかの力は借りないッ…!!」 頭の中が真っ白になり、何も考えられない。 気が付けばそんな言葉を放っていた。 「---…そうですか。じゃ、お先に失礼します。」 克己は素っ気なくそう言うと、荷物を持って出て行った。 私は何故か突き放されたような感じがしてならなかった。 (…悪い事、言っちゃったかな…。次会ったら、ちゃんと謝ろう…) 何も考えられず、無意識に言った言葉とはいえ、私は自分の言葉に対して反省した。 (早く終わらせて帰ろ…) 私は椅子に座り直して仕事を再開した。 だが、思うように進まない。 (…体壊してる場合じゃないのに…。仕事もまだ残ってるし、会計もやっぱり合わないし…) もう体力の限界だった。 額からは汗が流れ、呼吸も速く息苦しい。 視界も少しボヤけていた。 (早く…やらないと…) そこで私の意識は途切れた。
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