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そんな事をぶつぶつ考えていたらあっという間に時間が経って、遠くでチャイムの音が聞こえた。
僕の学校が、一時間目を終えた合図だ。
僕には関係ない。
だって僕の頭は今、数式や難解な英文法を詰め込めるような状態じゃないのだ。
もう一度紅茶を口に運んだら、甘い苺の匂いがふわっと鼻に抜けた。
ああもうホント、最悪だ。
この匂い。
エンジェル…なんとかだっけ。
彼女の恵美(えみ)が愛用してた香水に良く似た香りだ。
"人間て嗅覚で覚えた記憶は忘れないんだって"
真っ赤なハート型の香水瓶を手に、恵美は言ったっけ。
"智(とも)くんが心変わりしても、この香りがしたら絶対あたしを思い出すんだから"
僕はまた腹が立って、勢いよく立ち上がった。
床と椅子が擦れて、店内に耳障りな音が響く。
それに驚いたのか、サラリーマンの貧乏ゆすりが一瞬だけ止まった。
心変わりしたのは、恵美のほうじゃないか。
なのに僕といったら、まったくその思惑通りだ。
飲みかけの紅茶をそのままに、僕はカフェを後にする。
入口の自動ドアが閉まる頃、さっきのサラリーマンがまた貧乏ゆすりをする音が聞こえた。
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