失恋

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外に出たからといって、僕の気持ちが特別晴れるわけじゃない。 僕を出迎えた "いつもの風景" は、 "いつもと違う事" をさらに強調する。 僕の隣には、"いつも" だった恵美が居ない。 そんな長く付き合っていたわけじゃない。 思えば一年くらいか。 だけどこの街には、そのたった一年を思い出させるものが沢山ありすぎる。 例えば、あの花屋。 自転車のカゴに猫を乗せたお婆さんが、立ち止まっている。 花屋のおじさんが、"もう花なんか見たくない"って顔で曖昧な相づちを打つ。 最初に恵美に贈り物をしたのはあの花屋だった。 初めて手を繋いで帰った日、突然思い立ってプレゼントしたんだ。 真っ赤な薔薇を一輪選ぶような、そんなこじゃれた勇気のない僕。 だから恵美にあげたのは、淡いオレンジのガーベラだった。 恵美は、それでも随分喜んでいたっけ。 思い出すだけ、辛いのは分かっているのに。 この街は、恵美との思い出が溢れている。 ぼんやり花屋を眺めていると、カゴの猫が顔を覗かせた。 着せられた服が気に入らないのか、赤毛のその顔は不満げだ。 僕はその猫とだけ気持ちが通じ合った気がした。 「うちの猫、べっぴんさんでしょう」 お婆さんの陽気な声が僕をますますイラつかせる。 イヤホンを耳にねじ込んで、音量をあげた。 商店街を抜けるとその先は踏切だ。 それを越えれば僕が通う学校がある。 いい加減、学校に行こうか。 そう思った僕を引き留めるように、踏切の遮断機が降り始めた。
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