失恋

5/5
前へ
/58ページ
次へ
大音量のイヤホン越しに、カンカンとわずかに音がする。 待って渡るか。 右か、左か。 それとも引き返すのか。 僕には選択肢が4つもあった。 電車はまだやって来そうにない。 踏切の音に急かされるように、僕は左に足を向けた。 普通なら一番用のない道だった。 古い民家ばかり立ち並らぶ通りで、人がちゃんと住んでいるのかどうかすら怪しい。 ましてや空き地なんて、 アワダチ草が生い茂り、175センチあるぼくの頭を軽く見下ろしている。 もし僕がこの時 電車の通過を見届け踏切を渡り、学校に向かっていたら。 もし僕がこの時 右に折れて通い慣れたゲームセンターで遊ぶ事にしたら。 もし僕がこの時 来た道を戻りさっき残した紅茶を飲み干していたら。 そう思うと、僕の心臓は身震いを繰り返す。 もし僕がこの時 この道を選んでいなかったら。 僕はもっとずっと長いこと、体の底に鉛を沈ませて生きていく事になっただろう。
/58ページ

最初のコメントを投稿しよう!

111人が本棚に入れています
本棚に追加