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大音量のイヤホン越しに、カンカンとわずかに音がする。
待って渡るか。
右か、左か。
それとも引き返すのか。
僕には選択肢が4つもあった。
電車はまだやって来そうにない。
踏切の音に急かされるように、僕は左に足を向けた。
普通なら一番用のない道だった。
古い民家ばかり立ち並らぶ通りで、人がちゃんと住んでいるのかどうかすら怪しい。
ましてや空き地なんて、
アワダチ草が生い茂り、175センチあるぼくの頭を軽く見下ろしている。
もし僕がこの時
電車の通過を見届け踏切を渡り、学校に向かっていたら。
もし僕がこの時
右に折れて通い慣れたゲームセンターで遊ぶ事にしたら。
もし僕がこの時
来た道を戻りさっき残した紅茶を飲み干していたら。
そう思うと、僕の心臓は身震いを繰り返す。
もし僕がこの時
この道を選んでいなかったら。
僕はもっとずっと長いこと、体の底に鉛を沈ませて生きていく事になっただろう。
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