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今宵は満月。
只今夜中の二十三時。
雲一つ無く、光を遮るものがないために、比較的に夜の道は明るく照らされている。
夏を手前に控えた現在の季節は涼しく。丁度良い気温の為に、暮らしやすくなっていた。
そんな心地よい風が吹く中で、小さなコンビニの袋を右手に携えた少女が一人、息を切らして走っていた。
…………全速力で。
「なんで私がこんな目に遭わなくちゃいけないの!?今日は翔太(しょうた)のアイス食べちゃったくらいしか悪いことしてないのにぃ!!」
白と紺色を基調としている制服を着用し、まだあどけない顔立ちの少女は、今にも泣き出しそうな表情だ。
月明かりだけでなく、外灯も彼女の足元を点々と等間隔に照らし、その中で黒とも茶色ともとれるような、肩まで伸びた美しい髪が揺れていた。
そんな彼女が解っていることはただ一つ。
『全力で逃げなければならない』ということのみ。
追われている最中で、少女━━━━━━『不知火晶子(しらぬいしょうこ)』は、なぜこうなってしまったのかを考え続けていた。
勿論、何を考えた所で解決策が浮かび上がってくるわけではないことを、晶子は知っている。
だが、あまりにキッカケが唐突で、奇妙で、謎めいている為に、考えずにはいられなかったのだ。
事の発端は、約三十分前。
晶子が弟のアイスを食べてしまった時から始まる。
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