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「…………な」
『なによあれ』と言う声ですら、晶子は出すことが出来なかった。
なぜならば、あまりに唐突すぎたからだ。
厳密に言うならば、晶子が欠伸をした瞬間━━━━目を閉じたほんの0コンマ数秒の間━━━━にそれは起こった。
いきなり彼女の目の前に、球状の黒い物体が現れたのだ。…………何も無い、虚空から。
その物体はうねりを繰り返す。それは何かを生み出そうと、必死に悶え苦しんでいるように、晶子の眼には映った。
それは人、犬、鳥、植物。様々な『有象』を象り続け、そして、
「なに……それ」
獅子の頭、山羊の胴、そして蛇の尾を持つ、この世には存在しないハズの有象。
俗に言う、キマイラたるものに球状は変化し、三メートルはあるその漆黒の躯をクルリと翻し、晶子を真正面に捉える。
「嘘だよね?」
「グルルルルルルルルルルル!!」
本能的に危機を察知し、晶子は冷や汗を流しながら、ジワジワと後ずさる。
「た…………食べでも美味しくないよ~。あのホラ!私最近太ったから!!」
焦りすぎて、自分で自分の首を絞めている言い訳を言っているのに気がつかない晶子。
「グルルルアアアアアアアア!!」
そんな晶子の言い訳に、闇より生まれた存在が聞く耳を持つはずも無く、雄々しい咆哮をあげ、彼女へと走ってきた。
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