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必死に逃げていた晶子であったが、所詮は何も会得していない、どこにでも居るような少女である。
「あうっ!」
五分と経たない内に疲労が彼女の足をもつらせ、ちょっとした拍子に転んでしまう。
「痛……」
晶子は立ち上がりながら、擦りむいた手と膝から流れる真っ赤な鮮血を眺める。
しかし、『痛み』という感覚に浸っていられるのもつかの間の事。
「ひっ!」
背後から聴こえた何かの足音により、すぐさまそれは『恐怖』という感情に押し潰される。
恐る恐る晶子が振り向くと、彼女の予想通りそこには先程出現したあの獣が存在した。
「グルルルルルルル!」
その凶暴さを体言するかの如く、巨大な顎からは涎が滴り、今まさに力無き弱者が蹂躙されようとしている。
「あ……あ……」
大声で助けを呼ぼうとする晶子だが、恐怖のあまりに言葉が出ず、嗚咽を漏らすのみ。
(私……何かしたのかなぁ。何もかもわからないまま、消えちゃうの?)
晶子の胸の中には逃げようとする意思は既に無く、『死』という運命をただただ呪っていた。
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