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限界を越えた為に目眩がしているのかどうかさえケンタロウにはわからない。
彼には只ひたすら走ることしか考えられなかった。
日頃の運動不足を恨みながらもようやく会社付近までやって来た。
通いなれた道。
あとはあの交差点を曲がれば会社に到着できる。
安堵の表情が微かに浮かぶ中、ケンタロウは交差点を左に曲がった。
ガシャーン!!!!
ケンタロウは自分の身に何が起こったのか理解できない。
只右足に激痛が走るだけ…
(そうかぁ~何かにぶつかったんだなぁ。よりによってこんな日に)
アスファルトを眺めながら、ケンタロウに怒りが込み上げる。
ふと、顔をあげると目の前には鞄に入れていたCDが…
(あ~。山下さんに借りたCDが…。はぁ~なんてついてないんだぁ…ディスクまで飛び出して…)
同期の山下さんとは何故か音楽の趣味があった。
会社の飲み会で訪れたカラオケ屋で、先輩に無理やり歌わされた曲を聞き、彼女は話しかけてきた。
『地皆さんってあ~ゆう音楽聞くんだ♪意外~♪』
それ以来、山下さんとのコミュニケーションにはCDがかかせなくなった。
目の前に倒れている自転車の、未だに回り続ける前輪を眺めながらそんなことを思い出していた。
『大丈夫ですか~?』
ふと背後から女性の声が聞こえた。
ケンタロウはこの声の持ち主こそ自分を轢いた犯人だと確信した。
『ちょっと~!!痛いじゃないですか!!スーツも破けてますよ!!どうしてくれるんですか~?』
普段のケンタロウであれば、飛び出した自分にも非があると考え、謝っているところだが、今のケンタロウにはそんなことは考えられない。
『ちっ違います!!あなたを轢いた人なら、あなたが中々起き上がらないのを見て走って逃げちゃいましたよ!!』
この人じゃなかったのか。
今にも泣き出しそうな彼女の声を聞きながら、どうすればいいのかわからない。
『ごっごめんなさい。』
ケンタロウは眺めていた、自転車の前輪から彼女の方に視線を移した。
ドキッ!!
ケンタロウにかつてない衝撃が走った。
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