序章

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 紅葉が真剣を間近に見たのは初めてではなかった。  戦前生まれの祖父は真剣を持っている。  だが丹念に手入れしていたにも係わらず、こんなにはっきりとした刀紋は出ていなかった。  青年の刀はよほど使い込まれているのだろう。 「女にしてはいい太刀筋だった」  青年の言葉が遠くに響く。 「あなたは・・・・・何者・・?」  紅葉は震える声を絞り出した。 「新撰組副長、土方歳三」  青年は凛とした声で言った。  新撰組・・・・・・・  その名は昔祖父に聞いたことがある。  確か幕末の剣士集団。  祖父の祖父が隊士募集に名乗り出ようとしたが、あいにく病でかなわなかったと。  何故新撰組が。  いや、そんなはずはない。  だけど道場にいたはずの自分が何故外に。  しかも見知らぬ場所に。
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