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冷たい床に素足がふれると、冷気が全身を駆け巡る。
静まり返った空気に、時間が止まり、紅葉(くれは)の目に入るのは差し向かう相手のみ。
いや、それすらも目には入っていないのかもしれない。
流れるわずかな空気を肌が感じとり、見るより早く反応する。
「一本! それまで!」
この声で紅葉は我にかえった。
「まいった。さすが」
一本を取られた相手が脇腹を押さえた。
紅葉はゆっくりと竹刀をおろす。
今までぼやけていた視界がはっきりと、現実のものに還る。
気づくと、見物の門下生がざわめいていた。
「これで文句はありませんね。お祖父様」
紅葉は振り返り微笑んだ。
「・・・・・・・うむ」
祖父は苦虫をつぶしたような顔で頷く。
幼い頃はのみ込みの早い紅葉に面白がって稽古をつけてくれた祖父も、最近では相手をしたがらない。
そんな祖父に不満をぶつけるように、紅葉は免許皆伝の師範代に試合を申し込んだ。
祖父もまさか紅葉が勝つとは思わなかったのだろう。
勝てば免許皆伝を授けても良いとまで言ったのだ。
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