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土方は紅葉の荷物を持つと、丁さを出た。
丁さの人々に簡単に挨拶をする。
それが終わるか終わらないかのうちに、土方は紅葉の手を取ると足早に歩きだした。
その強引さを少し不審に思ったものの、よほど時間がないのかな、と納得してしまった。
しかし着いた先は港だった。
「なぜ港に?」
眉をひそめる紅葉に、土方は言った。
「これが最後だ。江戸に戻れ」
紅葉の脳天に雷が落ちたような衝撃が走る。
いつかは別れが来るとは感じていた。
土方に生き残る気はない。
今度の戦いは最後の戦いになる。
戦いに倒れなかったとしても、土方は生き残ることを拒むだろう。
最後まで敵に刃を向け、駆けてゆくだろう。
それならば、せめてその時まで共にありたい。
共に果ててしまうとしても。
土方のためならこの小さな命など惜しくはない。
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