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だが土方はそれを赦さない。
「日野の佐藤家をたずねろ。そしてこの手紙を渡せ」
そう言うと、土方は手紙を紅葉の荷物に押し込んだ。
「嫌です。最期まで共に居させてください」
「紅葉」
土方が紅葉をそっと抱き締める。
港には人が溢れかえっていたが、混乱していて、誰も二人に気を止めない。
大切なものを壊してしまわないよう優しく包み込むような抱擁。
あれはあの雨の日。
同じように土方は紅葉の頬を撫でた。
「生きてくれ。俺の分まで」
土方の低い声。
これが最後だなんて嫌だ。
紅葉は土方の背に手を回すと、決して離れまいと力を込めた。
もう二度と離れない。
そう決めてここまで来たのに。
涙がぼろぼろとこぼれ落ちる。
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