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――――ただの農家に生まれ―――――――倒れるなら本望だ―――――――
土方がいつか言った言葉をふと思い出す。
誠の男の心を、泣いて引き留めてはいけない。
紅葉は船縁を握り締める手に力を込めた。
やがて決意したようにぐいっと涙を拭うと、少しずつ遠ざかる土方を見つめ、笑った。
きっとこれが、土方に出来る最後のこと。
私を忘れないで。
この笑顔を、最期まで。
溢れる涙を風に乗せ、紅葉は精一杯微笑み続けた。
土方の姿が見えなくなるまで。
蝦夷の大地が見えなくなるまで。
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