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紅葉は庭に立ち、何となく梅の花を見つめる。
鮮やかな紅い花。
やっぱり何か、大事なことを忘れているような気がする。
でもそれが何か思い出せない。
不意に、誰かが近付く気配がした。
振り返ると、そこには少年が立っていた。
まだ高校生くらいだろうか。
あどけなさを残しつつも、男になろうとしている。
「誰?」
紅葉が声をかけたが、少年の返事はない。
「あ、もしかして内藤さんの息子さん?」
紅葉は思い出したように言った。
内藤はこの道場の師範代で、跡継ぎの居ないこの道場の後を継ぐ最有力者であり、幼い頃に父を亡くした紅葉の父親代わりでもあった。
内藤夫婦にはずっと子供がいないと思っていたが、実は前妻との間に息子がおり、最近前妻が急逝したため息子を引き取ったと聞いていた。
少し荒れているので、この道場で鍛え直したいとか。
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