3949人が本棚に入れています
本棚に追加
紅葉は迷いを消すように、再び竹刀をふるった。
この瞬間が一番好きだ。
何もかも忘れられる。
竹刀に全身の力を注ぎ、相手を意のままに操る。
今も見えぬ相手がいる。
紅葉が竹刀を振り下ろした、その時だった。
鈍い音がした。
腕に激しいしびれを感じ、竹刀は宙を舞い、闇夜に竹刀が転がり落ちる音が響く。
「誰っ?!」
紅葉は闇に向かって叫んだ。
闇の中で微かに人の姿が見える。
だが応えはない。
やがて雲が晴れ、月の光が射す。
紅葉は闇の中から浮かび上がった人物を見た。
月が出たとはいえ、薄暗くはっきりとはわからないが、整った顔立ちの青年。
彼は木刀を紅葉に突きつけている。
最初のコメントを投稿しよう!