序章

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 紅葉は迷いを消すように、再び竹刀をふるった。  この瞬間が一番好きだ。  何もかも忘れられる。  竹刀に全身の力を注ぎ、相手を意のままに操る。  今も見えぬ相手がいる。  紅葉が竹刀を振り下ろした、その時だった。  鈍い音がした。  腕に激しいしびれを感じ、竹刀は宙を舞い、闇夜に竹刀が転がり落ちる音が響く。 「誰っ?!」  紅葉は闇に向かって叫んだ。  闇の中で微かに人の姿が見える。  だが応えはない。  やがて雲が晴れ、月の光が射す。  紅葉は闇の中から浮かび上がった人物を見た。  月が出たとはいえ、薄暗くはっきりとはわからないが、整った顔立ちの青年。  彼は木刀を紅葉に突きつけている。
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