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紅葉は沖田に誘われて道場にいた。
「お。誰かと思ったら」
永倉が胴着姿の紅葉を見て言った。
「沖田とやるのかい? むちゃするねえ」
「別に仕合いするわけじゃないですよ」
沖田が笑った。
「たまには体を動かさないと、なまってしまいますから」
紅葉は言った。
「そいつはもっともだ」
永倉は頷く。
そして沖田が紅葉に渡した竹刀を見て言う。
「おや、竹刀でやるのかい」
「ええ。女性相手ですから」
天然理心流は木刀を使う。
紅葉の祖父は他流派に移っているため、道場では竹刀を用いていたが、時々ひとりで木刀を振るっているのを見たことがある。
「道場に入れば男も女もありませんが、沖田さんとの実力差を考えると、竹刀にしていただいた方がありがたいです」
と、紅葉は言ったが、実は木刀が苦手とは言えなかった。
土方に言った、祖父より天然理心流を教えられた、という話と矛盾してしまうからだ。
あの晩は勢いで木刀を振り回したが、やはり重くて竹刀の方が自由に動ける。
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