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刃物で背中を裂かれたような冷たい感覚を覚えた。
自分の中の理性が、日常にとってイレギュラーな情報を次々に打ち壊そうとする。
だがそんな行為も、彼女の真剣な表情を見ると全て無駄に思えてきた。
「美月が、死んでる――?」
コクリ、と美月が静かに首を縦に振る。
俺は、思いもよらなかった答えに動揺を隠せないでいた。
漫画やアニメが好きだから、彼女が宇宙人だったり、どこか異世界の戦士だったり、世界を守る魔法使いだったりといった設定には充分慣れている。
だから美月の正体が何であれ、その言葉を信じて受け止められる自信があった。
...だけど、これはそんな楽観的なものなんかじゃない。
彼女は今、自分は一度死んだ身だと言ったのだ。
俺は自分のコーヒーに手をつける事も忘れ、しばし呆然とした。
「その...、じゃあ美月は一度死んで、それから生き返ったのか...?」
これもやはり美月は、黙って首を縦に振るのだった。
「...そ、そんな馬鹿な事なんてあるかよ...。ど、どうせ死にかけだった状態から奇跡の回復を遂げたとか、そんなんだったんじゃないのか!?」
自分の理性を保つため、必死に目の前の理不尽を生む因子の駆除にとりかかる。
別に美月を信用していないわけじゃない。むしろさっき出会ったばかりなのに、これでもかってぐらい美月に心を許してる俺がここにいる。
でも、信じれる話にも限度がある。
人間が死んで生き返るなんて、ゲームなんかはともかく現実にあってはならない。
――だが、俺は知ってしまっている。さっきも、美月は確かに死んでもおかしくないような出血だったのに、今も何の処置もせずともピンピンしている。
こんな事が現実にあっていいはずが無い。
すると、今までずっと黙っていた美月が口を開いた。
「...今から少し、昔話をしよう。くだらない話だ、興味がなければ聞き流しておいてくれてもいい。
あれは何年前の話だったか――」
言うと美月は、コーヒーを少し口にしてから、何かに思い耽るようにゆっくりと話始めた――。
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