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と、不意に美月の表情が、どこか遠くを見るような悲しい顔になった。
...ような気がした。
「ふふっ...でも、月っていうのは自分じゃ光輝く事はできないんだ。
今光っていられるのも、光を送ってくれている太陽のおかげ。自分では何もする事ができないような愚か者なんだ...」
その何気ない言葉が、俺には何故か意味深長に聞こえた。
まるで自分を自嘲するような口調で話す美月は、何も言わずそのままうつむいてしまった。
俺は、そんな悲しそうな美月を見ている事に耐えられなかった。
「...俺って馬鹿だからさ、そんな事わかんねーし難しい事なんて覚えたくもない。
でもさ、今あそこに光って見える月が綺麗だと思うのは、間違いなくそれが月の魅力なんだと思うぜ?
太陽の光になんて全然劣らない、あれが月の光ってやつだと俺は思う」
「え...?」
「ほ、ほら!電化製品なんかでも、たしかにコンセントがないと動かないけど、その電力を使って電化製品は自分の個性を発揮するんだ!なっ!?月と同じだ!」
「ふふっ、なんだそれは...」
やっと明るく笑ってくれた美月を見て、俺はたとえようのない幸福感に満たされた。
美月にあんな悲しそうな顔は似合わない、会って時間もそうたたないのに俺はそう確信した。
そして、気付けば俺たちは自宅の玄関前に着いていた。
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