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しかし、無情にも硬貨は速度を緩めることなく、それどころか、余計に速度を増して、坂を転がってゆく。
しかし、それでも食らいついてゆく龍冶。
もはや、普通に家に帰って水分補給した方が早いんじゃないかとも思うが、今の彼にそんな事を考える余裕など無かった。
しばらくして、坂を降りきったが、硬貨の勢いはとどまらず、そのままの勢いでどんどんと転がっていった。
不思議な事に、硬貨は障害物に一切当たらずに転がり続けているのだ。
いや、よく見ると、自ら障害物を避けているようにも見える。まるで、意志を持っているかのように……
しかし、そんな事に疑問を持つ余裕もなく、硬貨を追い続ける龍冶。だが、そろそろ、彼の体力も限界に近付いてきたようだ。
【も…もう、だめだ……これ以上はむり……!】
次第に速度が落ちてゆく龍冶。もう、ここまで…そう諦めようとした時だった。
チャリン、という音が龍冶の耳に届く。
これは……硬貨が何かにぶつかった音だ。
案の定、硬貨は壁にぶつかり、龍冶の目の前でその動きを止め、その場に落ちていた。
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