ある夏の日。

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暑い日差しの下で 一組(ひとくみ)の 少年少女がその顔を 汗でぐしゃぐしゃにしながら坂道を自転車で登っていた。 先程までは緩やかだった坂道も今は押して登るのがやっとのくらいで 全く前に進まなくなることさえあるほどにきゅうなものに変わっていた。 そよ風さえ吹いてくれたらと少年は頭の片隅で思ったが、日差しだけで全くの無風。 二人はただ坂道を登るしかなかった。 2時間前のことだ。 隣りの家の莢芽(さやめ)が海が見たいと言い出したのである。 莢芽は僕と同じクラスの友達で隣り近所ということもあってか昔から仲は凄くよかった。 正直なところ、 意識してしまうこともある。 だからかかも知れない。 僕は彼女の誘いに即答でOKサインを出していた。 ただ、夏休みの真っ只中の8月7日―、 海は混み合うだろうと 彼女は山から見ると言い出したのである。 僕たちの町の近くには山がある。 それなりに高さがあって町全体を見渡せる―、 そんな山だ。 おまけに展望台もついているから少し距離のあるところを見るということも問題はなかった。 だから山に向かったのだが、 おおよその夏の暑さだ。 登るうちに汗が涌き水のように溢れだし、今にいたる。気づいたら、僕は前をはしる莢芽を見ていた。 やや小柄の体格、長い黒のサラサラの髪、ジーパンの半ズボンでもわかるちょっぴり小さめのお尻…、 それをじっと見つめていたことに気がつくと同時に彼女の目と目が合った。 まるで…というより、 明らかに睨みつけるようなその瞳は目で語っていた。 …変態と。 結局、その後も暑いままでもはや意地で登りきっていた。 駐車場の木陰に自転車を揃えて停めると、木々の覆う道を二人歩いた。 その先に展望台はある。 と、いっても実はまだ距離がある。 木陰なのが唯一の救いで、 僕と彼女はお互いびっしょりとかいた汗を拭いながら歩いていた。
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