隣の捕手

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深い深いため息とともに、俺は声の主の手を握り返した。怒りの一つも露にする権利はあっただろうが、せめて冷静さを保たないと何かに負ける気がした。何に負けるのかはよくわからん。 「光島順平(コウトウ・ジュンペイ)だ。コウトウは光に島、ジュンペイは順番の順に平。よろしく頼む」 言いながら、俺は背筋を伸ばして声の主に向き直る。 ───綺麗な髪だな。 それが、俺が受けた第一印象。 やや紫がかった、艶のある腰まで伸びたそれの一部はピンクのゴムで縛られている。大人びた、いかにも「大和撫子」な風貌だが目は異国の子供のようにくりくりしている。それがなんとなくミスマッチで、それでいてその少女の魅力を引き立てているように思えた。 あえて言おう。みとれた。 「面白い名前だな」 自分の名前を棚にあげ、「六道聖」はそう言った。 「まあ、せっかく隣同士になったのだしな。よろしく頼むぞ、光島」 六道聖が背を向ける。長い髪が、その動きにあわせて柔らかに揺れた。
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