メイドになりますか?

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林の中を歩いていると、橋のかかった場所についた。 橋の下を覗くと、川が流れていた。 上流のためか川の水が透き通っており、小魚が水面でキラキラと泳いでいた。 アンジェは子供のような瞳で川を見つめた。 「すごーぃ…」 「だろ?」 突然後ろから声がした。 振り返ると、全身緑色の生き物が立っていた。 アンジェは先ほど会話したシスターもどきの彼の言葉を思い出した。 「あ、河童さんだ。」 「リアクション薄いんだな、お前。」 河童は「チッ」と舌打ちをした。 「ねぇ、「シリコダマ」を取るの?」 アンジェはランランとした目で質問した。 「あぁ、だからここらの人間は俺様に近づこうとしないがな。」 不敵な笑みを見せながら、河童も川の流れを眺めはじめた。 アンジェは珍しい河童の姿に見いってしまっていた。 沈黙が支配しようとしていたとき、ある違和感を見つけた。 「首あたり、肌色ですよ?」 「…うるせぇ。」 「甲羅の陰からチャックも見えてますよ?………着ぐるみ…」 「人の外見的欠点を指摘するやつは嫌われるぞ。」 どうやら河童も“もどき”のようです。 「何でこんな人気のない薄暗いところにいるんですか?」 河童は橋に寄りかかった。 「…仲間に会えそうな気がしてな…。」 河童は下流のほうを見つめながら呟いた。 「仲間…出逢えるといいですね。」 哀れな生き物を見る目で、アンジェは呟いた。 「ところでおめぇ、こんなところに何しに来たんだ?なんもないのに。」 河童は改めてアンジェの姿をまじまじと見た。 「あ、この先にある“アンジェリーナ邸”というところに用事があるんです。」 アンジェは河童に募集チラシを見せた。 「ふぅん…でっかい建物なら、この先をもう少し行って、丘を登れば見えてくるんじゃね?」 アンジェは河童をチラっと見た。 「…詳しいですね。」 「ずっといるからな。俺だって、皿の水が乾くまで外を歩きたくなるときがあるんだよ。」 河童の事情はともかく、目的地が確実に近づいていて、アンジェは安心した。 「面接があるので…そろそろ行きますね。」 アンジェは河童に別れを告げた。 「…おぅ。とりあえず頑張れな。お前の尻子玉はお預けだ。」 河童は笑顔で手を振っていた。 アンジェもそれを見て手を振った。 「シリコダマってなんだったんだろう?」 アンジェは考えてみたが、よくわからなかったという…。
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