98人が本棚に入れています
本棚に追加
『とにかく、やってみるしかないか』
俺は「アサメイ・ビーナス」の刃を、一旦折り畳んで胸ポケットに入れる、それから加奈さんの患部であるらしい右肩から左脇にかけての、その真ん中辺りに手を添えようとして…手を止めた。
(………どうした?何故ルナライトを使わない?)
『いや、使う気はありますけど…ね』
(ならば早くやれ)
『いや、ですから…患部の中心の位置が…胸の辺りなんですけど;』
先ほど「アサメイ・ビーナス」の、緑色の光によって照らされた「患部」は右肩から左脇の斜め一線だ、となれば右肩や左脇からだと「端」と「端」と言う真反対の位置関係により、ヒーリングエネルギーが流れるにしてもバランスが悪く…左右に循環せずに一方へ集中して流れてゆく、…あくまでも例えだが、右肩の傷は完璧に塞がったが、左脇は薄い皮膚が出来た程度で、辛うじて出血を止めてる…と言う感じになる、そうならないよう左右に同時…つまり右肩にも左脇にも、同じ量のヒーリングエネルギーを流せば、癒やしの力がバランス良く循環する、その癒やしの効果も効率的なので、この場合は「患部」の中心が最もベストなのである、だが…加奈さんの「患部」の中心となるのは、先にも書いた通り、胸の辺りになる…ヒーリングを施す位置としてはベストなのだが、手を触れる場所としては、かなり問題がある。
(そんな事を言っている場合か?この娘の命がかかっているのだぞ?早くやれ)
『………………』
龍神の分霊さんの言うことは、冷静に考えるならば…実に的確かつ、正確な判断だと思う…だが、一応なるべく常識や、個人の良心的思考の範疇で考えて行動しようとする者としては、例え「命がかかっている」と分かっていても、気を失っている女性の胸の辺りに手を直に触れるのは躊躇われる…「それはダメだ、許される事じゃない」とか「胸に触れるだって?犯罪だろうそれは!」と、次々に脳内にそんな言葉が駆け走ってゆく。
最初のコメントを投稿しよう!