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俺が脳内で葛藤して迷っている間にも、加奈さんの命はどんどん危機にさらされている、…変態に墜ちるのを覚悟して胸の近くに手を触れ、ルナライトを使うしかないのか?
『むぅぅぅぅ………う?……あ!…そうだ!』
俺は唸るのを止め、上着のポケットに手を入れた、そこから取り出したのは、最近…魔術武器として鍛え始めたばかりの「ランス・ナックル」である。
俺はその「騎兵槍」の形をした小さな魔術武器の先端を、加奈さんの胸…患部の中心に当てた、これなら彼女の胸に直に手を触れるなんて外道はせずに、ルナライトのヒーリングエネルギーを流せるだろう。
(早くしろ、霊体の傷を幾らか癒やすだけでも、この娘の命が助かる可能性は高くなるからな)
『ああ』
俺は龍神の分霊さんに返事をしてから、意識を自らの内に沈めて「夜空に浮かぶ満月」をイメージし、ルナライトの「名」を唱える。
……フゥゥゥゥゥ…
微かな息吹のような音を立てて、ルナライトの癒やしの光が「ランス・ナックル」を通して、加奈さんの体へと伝わり、彼女の全身を青白い光が包み込んだ。
………………
『…………………どうなんだろう、少しは効いてるんでしょうか』?
数十秒ほど「ルナライト」を使い続けているが、加奈さんの様子に変化が見られず、無意識に口に出していた。
(大丈夫だ、効いてはいるが傷が深すぎるのだ、先ほどよりは少しは良い…あくまでも、霊体から急速に漏れ出る「気」を辛うじて止めた程度だがな)
『これ以上は意味が無い?』
(意味が無いとは言わんが、今より治療を進めるのは厳しいだろう、最低限ではあるが「霊傷」は癒やした、後はあの魔女に頼むしかあるまい)
『魔女?』
はて?ウイッチ・クラフトを使う人なんて居たか?
(……黒澤とか言う女の事だ、割とすぐ近くに居る気配を感じる、そこまで娘を運ぶのだ)
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