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霧島の返事の内容を聞いて、黒澤は左手の人差し指をこめかみに当てつつ、口元を小さくひきつらせながら溜め息をついた。
『分かりましたわ、ですが…くれぐれも油断なされないように』
『はい、じゃあ行ってきますね』
霧島は頷くと、警戒しつつ、再び「赤い靄」に満ちた廊下へと歩み出て行った。
『……さて、三人が戻るまでに、やるべき事を済ませておきましょう、まずは山辺さんから』
『え?…俺?』
ベッドに横になっていた山辺が顔を上げた、黒澤が唐突に自分に向けて、何かをするような発言をしたからだ。
『別に何も変な事は致しません、ただ、肉体的な傷は魔術で治しようがありませんが、魂に受けた霊傷は、私の霊薬を飲めば治せますもの、まずはそちらを治療しましょう』
黒澤はそう言って、病室に運ばれてきた自身の荷物をベッドの側に運び、中から美しい造形のガラス瓶を幾つか取り出した。
そのガラス瓶の中に満たされた薬液こそが「霊薬」である、黒澤が調合した、数種のハーブから作り上げた薬だが、見かけに反して以外と美味なものもあれば、見かけ通り…口に含んだ途端に吹き出したくなるような不味い霊薬もある。
『黒澤部長、俺、なるべくなら美味い味の薬が良いんですけど;』
ベッド脇の棚に並べられた、色とりどりなガラス瓶を見ながら、山辺はとりあえず要望を黒澤に伝えてみた。
『うーん…そうしてさし上げたいのは山々なのですが、美味しい霊薬は比較的に治癒が遅々としておりますの、この状況では一刻でも早く、傷の一つくらい治癒しておかなくては』
そう言うと、黒澤はガラス瓶の一つを手に取り、まるでカットされた宝石のごとき美しい細工が施された蓋を外し、山辺の口元へと運ぶ…
『うっ;』
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