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『霧島さん、何かありましたか?』
俺は棚の方でガサゴソしている彼女の方を向き、声をかけてみた。
『ううん、薬品とかがあるだけ…』
と、首を振っている。
結局はこの診察室には何も無い訳だ、仕方ない…面倒だけどUターンして、見てきた部屋を調べてみるか。
そう思って入り口の方へ体ごと向きを変えた…時だった。
ギィィィ…
先ほど俺と霧島さんが開けた時と同様、軋む音を立てながら古びたドアがゆっくりと開いた。
『え……誰?』
薬品を納めてある棚から、ドアの方へ向きを変えた霧島さんが、警戒感を含んだ口調で問う。
何故ならドアの向こう…薄暗い廊下に人影が立っていたからだ、その影はゆっくりとした足取りで診察室へと踏み込んできた、姿勢正しく立つその姿は気迫に満ちており、右手には鈍く輝く剣が握られていた、しかし、その影が診察室の薄明かりの中に入ってきた時、俺と霧島さんは言葉を失った、何故なら相手の頭部が…鴨なのだ。
【失礼スル】
『………』
『………』
人間と変わらない胴体を持った鴨は、その嘴をパカパカ開閉しているだけなのに、若干の濁りはあるものの、流暢に日本語を語っている。
【突然ではあるが、ワが召喚主の命令で、そなた達の命を頂きに来タ】
ゆらり…と、剣を改めて両手で握りなおす「鴨頭」の妖魔、だが、その構えは素人の俺から見ても分かるくらいに、隙だらけであった。
両手で握って…とは説明したが、正眼と言う基本にして、最も隙が少ない構えでは無く、人間の「技術」で呼ぶならば、大上段の構えと呼ぶもの、当然だが振り下ろした威力は凄まじいが、剣を振り上げている為、隙だらけになってしまう。
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