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【残念ダッたな…】
診察室の中でも、特に暗くなっている辺りから声が聞こえてきた、もちろん相手が何者かなど説明する必要はないだろう。
ギシっと板張りの床を踏みしめて、薄明かりの中へと出てくる鴨頭の妖魔… つい今、龍神の雷光を浴びて、黒こげに焼かれたとは思えない姿であった、何故なら部分的に火傷した箇所は残っているものの、全身の七割くらいは元通りに治っているからだ。
『バカな、龍神の雷光で焼かれた筈なのに』
【龍神ダと?…なるほどな、ドうりで、これだけの威力がある筈だナ】
鴨頭の妖魔は、未だに黒く焼けた左手を上げた、俺や霧島さんに見せ付けるように…そして。
シュウゥゥ…
何かが窄むような奇妙な音と共に、黒こげの左手が見る見る内に肌色へと治ってゆく。
『何!?』
『治癒の…魔術なの?!』
【違うナ、オレは剣士だ、治癒の魔術などは使え無イ、…これだ】
鴨頭の妖魔は胸元に下げていた「アンバー」が組み込まれたペンダントを左手で示した。
『魔術具か?…治癒の霊力が込められたペンダント?』
【その通りダ、貴様ラ人間とは違い、オレ達は治癒の魔術の効果で、体を癒せるからナ】
『そういう事か…』
人間は物質的な「肉体」である為に「魔術」の効果で、傷を癒す事は不可能…なのだが、妖魔は存在そのものが最初から「霊体」なので、霊的な治癒の力で、直接的に傷を治せるっ言う訳だ。
『どこでそんな物を…』
【召喚主に頂いタのさ、お前達を殺しに向かう時二、好きな物ヲもってゆけト、許しを得てたからナ、オレが貰ったノはこのペンダント…と、言う事だ】
そして鴨頭の妖魔は、自らの愛剣を再び両手で握りしめ、振り上げて大上段に構えた。
【所詮は人間風情と侮ったが…次は油断せぬゾ!!】
俺と霧島さんは素早く体制を「構え」に移行し、再び各々のアサメイから、輝く霊光刃が放たれる、そして…そのタイミングを見計らっていたかのように、鴨頭の妖魔は床を蹴り、こちらへと突進してきた。
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