準備中

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その余計なコメントが一切無い所が、まさしく「霊薬」の「不味さ」の、全てが表現されていると判断できる、つまりは「不味いとしか言いようがない」訳だ、どんな不味さなのかは、今のままで飲んだ事の無い山辺には、とても想像が出来ないが、霧島の様子からして少なくとも好き好んで、頻繁に飲みたいとは思わないものであろう。 『どうしました?早く飲んで下さい、私これから「結界」を病室に張らなくてはなりませんから…さあ』 黒澤は、山辺の内心の葛藤など気にもせず…いや、気がついてないのだろうか?とにかく「早く飲め」と、霊薬のガラス瓶を差し出したままである。 『……っ!ぬああっ!』 生唾をゴクリと喉を鳴らしながら飲むと、山辺は気合い一発、叫びを上げてからガラス瓶に口を付け、一気にゴクゴクと中の薬液を飲み…干した。 『……………』 『あまり美味しくはありませんが、良く効きますから、後は安静にされていて下さい』 空になったガラス瓶に、再び美しいガラスの蓋をしてから棚に置くと、黒澤は返事をする事が出来ず、青い顔をしてグッタリとしている山辺に背を向け、病室に結界を張るべく、鞄の中からインセンス、蝋燭、羽ペン、インク、オイル、パーチメントを2枚ほど取り出して準備を始めた。 『まずは「護符」を作りましょうか』 黒澤は、ベッドとベッドの間に置かれている、お見舞いに来た人が座る時に使う、丸い椅子に座ると、棚に香炉を置き、小さな炭に火を付け、赤く燃えてきた炭の上から、小さめに砕かれた「乳香」を振り掛ける、…「乳香」が燃えてくると、澱んだ空気の病室内に独特な香りが充満してゆく、それだけでも空気が少しだけだが、清浄になったような気がする。 そして引き続き蝋燭に点火した後、羽ペンの先に「ドラゴン・ブラッド」と呼ばれる血液インクを付けると、テーブル代わりの棚に一枚のパーチメントを置き、羽ペンを動かしながら護符の作成を始めた、…三つの魔法陣を三角形…各三点の頂点に位置する場所に描いてゆく、それぞれが全く異なった魔法陣で、円内に複雑な十一芒星を描いた魔法陣を上部頂点の一角に記し、下部の左右には星座、シンボルを主とした魔法陣を記して行く。 今描いている「護符」の魔法陣は…さほど複雑では無いが、決して簡単でもない…それをかなりの筆速で描き上げていった。
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