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藪崎亮が描くような、精密かつ正確極まりない魔法陣ではないが、それでも並みの造形では無く、とてもフリーハンドで描いたものとは思えない、ちなみにあれこれと説明しているので長く感じるかもしれないが、実のところ…僅か3~4分しか経っていない、信じられない早さである。
『…こんなものかしらね』
続けて2枚目のパーチメントに同じ魔法陣を記した「護符」を描き上げると、黒澤は「ドラゴン・ブラッド」と「ホーリー・オイル」の二種類を少量混ぜ合わせ、それを指先に付けてから「護符」を裏返し、無地のままのパーチメントの中央に指を触れ、短い「祈り」を唱えた…
『ドルマリー、ラメク、カダト、パンキア、ヴェルデュレク、アネレトン、メタトロン、いと清らかなる天使達よ、このアミュレットに聖なる加護を与えたまえ、あらゆる悪意より身を守らんがため』
簡易化した「聖別」である、木村翔のように数分~十数分程度の短い儀式を使う事もなく、黒澤は自らの力と意志で「簡易聖別」を施したのだ。
もちろんこれは黒澤のように、一人前並みの魔術師だからこそ可能な、簡易化された聖別であり、木村や霧島のような半端な魔術使いの技術では「魔術」として全く作用しないであろう。
『出来ましたね』
黒澤は独り言のように言葉を口にしながら、1人頷いている…手にした「護符」からは、ぼんやりとした光が吹き上がっているのが見える、もちろんそれは病院が「異界化」されているからに過ぎない、黒澤ならば日常でも視覚できるが、一般人や半端な魔術使い達には無理な事だ。
黒澤は、指先に付いたオイルを布でふき取ると、再び置いてある鞄の中を漁り始める。
『あれは…どこだったかしら、確か入れた筈なのです…けど』
鞄に手を入れてゴソゴソしている様子は、後ろから様子を見ていた山辺から見ると、玩具箱の中をいじっている子供のように見えて何とも可愛らしい。
『何を探してんですか?』
と、未だにベッドで青ざめた表情をしている山辺が、黒澤の背中を見ながら訪ねてみた。
『ああ、山辺さん…いえ、今描き上げた「護符」を、入り口の両側に打ち付ける為の「棺桶の釘」を探していますの』
しかし、黒澤が答えた探し物は、とても可愛らしい様子からは考えられない、不気味な魔術用品であった。
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