準備中

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(妖魔では無いみたい、それに聞き覚えがある声だけど…) 霧島はそう考えたものの、用心の為に壁際に寄り、片膝を付いて頭を下げ、かなり姿勢を低くした、周りに漂う「赤い靄」は、足元…だいたい腰から下辺りにかけて、特に濃く漂っているので、それだけで霧島の姿を覆い隠してしまう…少なくとも視覚的には簡単には見えない、注意深く見るか、よほど気配に敏感でないと気が付かないだろう。 『よっと、よいしょ…』 (急げ、お前のヒーリングは気休めにしかならん) 『分かってる、けど、本当に、近くに、黒澤さん達が、居るんだな?』 よっぽど重い物を運んでいるのか、語っている人の声に余裕は無い。 (え?黒澤さんって…、あれは木村君なの!?どうして此処に?) 「赤い靄」の中を、お爺さんのような中腰の姿勢で、微かに引きずる音を立てつつ、霧島が身を潜めている壁際の、すぐ横を通り過ぎて行くのは、夕方に親戚の家へと帰って行った筈の木村翔であった、彼の姿を見た霧島は、嬉しさのあまり反射的に声をかけそうになった…だが、木村の言葉に続いて、まるで聞いた覚えの無い、威厳を漂わせた声が聞こえてきたので、開いた口に手を当て、ギリギリで出かけた声を止めた。 (今の声は…誰?木村君は普通に話をしていたから、味方だとは思うけど、他に誰も居ないよね…) 壁際から数歩ほど離れた脇を通り抜けてゆく木村を、霧島は見守り続けた、その彼がなぜ中腰で、しかも何を引きずっているのか…木村が移動した際「赤い靄」がユラリと動いて薄れた時に、一瞬だけ「それ」が見えた、それはグッタリと…力なく木村に引きずられたままにされている綾崎加奈であった。 『か…!加奈ちゃんっ!!?』 『∑おわぁぁぁっっ?!』 霧島は引きずられている綾崎を見て、冷静さを失い「赤い靄」の中から、バッと立ち上がると大声で綾崎加奈の名前を呼んだ、そしてもちろん、全く予期していない所からの唐突な霧島沙耶の登場に加え、すぐ横で大声を出された木村は、素で驚愕の叫びを上げ、綾崎を運ぶ為に、脇下に入れていた両腕を離してしまった、それにより、支えられていた綾崎の上半身は床に倒れ、頭が床にぶつかり「ゴツン☆」と、響き良い音を立てた。
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