2人が本棚に入れています
本棚に追加
*
「……きろよ」
揺さぶられた感覚に薄目を開けた。
「起きろよ」
二度目のそれで意識を漸く覚醒させて、彼は目を開いた。
「…おはよ…勇」
彼は起こしてくれた少年の顔を見た。彼より遥かに高い背に、がっしりとした身体の持ち主だ。どうやら、学ランがキツいらしく、前をはだけていてTシャツが見えている。
「大丈夫か? 汗かいてるけど……っか、授業後まで爆睡って、どうした」
「……」
彼は額の汗を拭い、伸びをする
「塾の課題とかで寝るのが遅くなった」
「郁哉は大変だよなー」
と言いつつ少年…佐々木 勇はドカベンを持つ。
「お前みたいに特技があるって訳じゃ無いからな」
「頭が良いのは羨ましいな………ま、良いや。行くぜ? 屋上」
「暑く無いか?」
彼…御祓 郁哉は思わず振り返り、窓の外を見た。梅雨明けの洗われたように透き通った真っ青な空が広がっている。まるで瑠璃色の硝子細工が敷かれているかのようなそんな蒼だった。
「風が爽やかだし、影で食えば大丈夫だろ」
「だな」
と教室を二人で出掛けた時だった。
「佐々木先輩」
可愛いらしいセーラー服の少女がいた。
「…練習あったっけ?」
「はい。勿論です。ビシバシ行きますよ? あ、お弁当は下で食べる時間がちょっと残ってますから」
彼女は勇が所属しているサッカー部のマネージャーだ。毎回、何かにつけてサボろうとする勇を毎回引っ張って行く。
「……キツいなぁ」
不貞腐れた顔の勇。
「大会前ですよ。キャプテンいないなんて信じられません」
「キーパー、頑張れよ」
郁哉からも言われて、渋々勇はマネージャーに付いて行く。郁哉は溜め息を吐いて、一人屋上へ向かった。
屋上はやはり強い日差しが照らしていて、かなり暑かった。向こうに見える入道雲に、もうすっかり夏だなぁ。と思いつつ、校舎に戻る。屋上に続く階段は不思議と薄暗くひんやりしていた。窓から見える空を眺めつつ弁当を広げた。
――また、見ちまった…
母親との死別の光景。何処までも紅い部屋と生臭い鉄の臭い。
「………」
米粒がふいに肉のような気がした。郁哉は苦々しい顔をして、飲み込み、唇を舐めた。また、噛み切ってしまったようだ。
「はぁ…」
勇を持ってかれたのはマズかったかな。と堕ちて行きそうな思考の軌道を修正をする。
暫くして、食事を終えた郁哉は昼寝を始めた。ひんやりとした床が気持ちよい。下らない授業をBGMに教室で座って寝るよりは幾分かは、マシな睡眠が出来るだろうか。
最初のコメントを投稿しよう!