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「…御祓君」
トロリとした微睡みの中に凜とした声が響いて、郁哉は覚醒した。
「うん?」
目を開けて見ると顔の前に女子生徒の整った顔があった。それはもう郁哉が、ほんの少し上半身を動かせば、唇が触れてしまいそうな近さで……実際、セーラーのリボンは郁哉の首筋に触れていた。
「………えと?」
混乱したように目を瞬かせる
「…何の用かな…?」
「貴方を殺しに来たの。まさか、昨夜の事、覚えて無いとか無いよね?」
くすり。と形の良い唇が歪んだ。
「昨日……」
郁哉は記憶を辿る。あの夢が邪魔をして幽かになった記憶を。
*
夜十時頃…小学校と中学生に挟まれた比較的広い道であるにも関わらず、街灯が少なく薄暗い通りを郁哉は、グラウンドにある街灯が校舎だけを白く浮き上がらせていて、不気味だなと思いつつも、とぼとぼ登っていた。
「……」
ふいに立ち止まる。表情が急に険しくなった。まだ傾いてる満月が照らしている中学の校舎を見上げる。
「……見付けた」
屋上に人影があった。彼の瞳が蒼みがかった。
トン
地面を蹴る。学校を囲むフェンスに飛び乗る。そのまま蹴り出す…校舎の壁に横向きに着地。そして走る。重力を無視して、郁哉は屋上に着いた。
「おい、月鬼」
声に振り返るそれは、人とは、言えない容姿をしていた。白い髪に長い牙。尖った耳に鋭い爪…さながら、角の無い鬼。と言った体に、月のように静かな蒼の瞳。だが、確かにそこには狂気が宿っていた。
「……血ぃぃい」
ぶん
と振り回される手。
「防(ふせぐ)」
必殺とも思える一撃をかわそうともせずに郁哉は静かに呟いた。その手は見えない壁に阻まれたように、郁哉には届かない。
「……動呪」
凜とした声。放たれた札が月鬼の動きを止める。
「…一般人は下がってなさい」
郁哉と鬼の間に少女が割り込む。が、郁哉は地面を蹴り、彼女を通り越して、刀子を取り出し、鬼の額を貫く。
引き抜いた時、鬼は人の姿になっていた。額から雫の形の透明なモノが浮き上がる。そして、それを四分の一程液体が入った小壜に受け取る。
ポトリ
波紋を残して、それは壜に納まった。
「……」
郁哉は振り返って、飛び越す際に頭を蹴って昏睡させた少女を見る。
そして、そのまま屋上から飛び降りた。
*
「ああ…禊(みそぎ)さんだったんだ…昨日の」
思い出したように呟く。
「……ええ。貴方がどうやって月鬼を倒したかは知らないけど…解呪師(げじゅし)なのは判った。禊の者として見過ごす訳には行かない。月雫(げつだ)を渡しなさい」
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