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「断る」
「貴方、自分の状況を理解してるの?」
「ああ」
「じゃあ、逆らわない方が良いよ」
「……甘いんだな」
郁哉がぐんと動き、体制が逆になる。
「咒動」
「動呪」
二人の呪いが相殺する。
「……っ」
禊 玖未は息を飲む。が、すぐに次の手を打とうとした。が、郁哉が僅かに早く、玖未の懐に手を伸ばして鎖の付いた小壜を引きずり出し、握る。
「良いのか?」
呪式を紡ごうとしていた玖未が止まる。
「………」
「…こんだけ集めるの大変だったろ?」
「……」
「あんただって知ってる筈だ。これを集める意味を。確かに御祓から見ると俺は鬱陶しいかも知れない……だけど、こっちだってそれなりの覚悟してるんだ」
「……取るなら取りなよ」
沈黙……暫くして、郁哉は壜を手放した。
「……退きなさい」
「……殺されたら困るからな」
「………貴方にとっても、これは必要なのに、私のを奪わなかった。それに応えましょう。まぁ、取らなくて、正解だったけれど…」
郁哉の胸に向けられた指先に禍々しい妖気が宿っていた。
「……」
郁哉が立ち上がる。
「貴方の呪式は穴が多いし、見張りたいし……私の弟子になるなら、認めるよ?」
玖未は身体を起こしながら訊く。
「断る」
きっぱりと、彼は首をふった。
「……貴方、まだ望月の月鬼は倒した事無いでしょ?」
「ああ」
「十六夜の月鬼は昨日の比じゃ無いよ。今の貴方じゃ勝てない」
「……対策はある……あんまり使いたくないが…」
「そう。死ぬことになるよ? 多分」
「……じゃな。お前、実はとっても優しいんだな」
郁哉は弁当を持ち、玖未の横を通り過ぎざまに、ぽんと肩に手を載せて言う。
「……っ…ふざけるなっ」
顔を赤くして玖未は郁哉の背中に叫んだ。
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