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玖未はぼんやりと部屋の写真立てを見ていた。そこには同い年位の少女が写っていた。
「はぁ……」
ため息を一つ吐いて、胸の硝子壜に触れる。
―…ったく。
甘い。自分は甘過ぎる。何故、御祓を認めてしまったのだろう。十分に手痛い思いをしているのに…。
「はぁ……」
ため息を再び吐き、窓の外を見た。まだ淡い夕焼けを遺した夜空に丸い十六夜の月が浮かんでいた。満月と言えば十五夜のイメージがあるが、実は、十六夜の時に月齢は一番高い。そんな月を見ていると、ふいに悪寒に襲われる。
――……市街地から…
「最悪じゃん」
呟いてしまう。月鬼は吸血する事で人々に呪いを広げて行く。市街地など人の多い所に現れると、月鬼の数が急激に増える。
――手に負えなくなる前に終わらせなきゃ。
彼女は慌てて用意をして部屋を飛び出した。
自転車で飛ばして十分程で、この古豊町の駅前に出る。この辺りでは珍しくビルが建ち並んでいる。玖未は人々を避けながら自転車を押し歩く。意識を張り詰め、気配を探す。
「見付けた」
小さく呟く。このデパートの上にいるようだ。でも、まだいる。二匹どころでは無い。行くのを躊躇していると、上方の気配が消えた。
―…やるじゃない。
郁哉だろう。彼女はとりあえず近場で比較的に強そうな気配のする方へ自転車を走らせる。
ビルの間の薄暗い通りに入る。
「いた」
それ自体がぼんやりと光るのだろう。暗闇の中、月鬼の姿が白く浮いていた。人の臭いに気が付いたのか振り向く。青い瞳が淡く輝いていて、白い口元には赤い血が付着している。鬼が動こうとするも
「動呪」
玖未の呪いが縛る。動けない事を理解した鬼は苦痛の叫びを上げながら、口を開き、閃光に近いモノを吐き出す。
「防」
彼女に届くまでも無くそれは阻まれる。
「大人しく、解呪されなさいな」
彼女は踏み込み、鬼の額に刀印を当てる。
「呪式呪解」
鬼の額から月雫が浮かぶ。玖未はそれを壜で受け、身を翻す。倒れ伏す人を無視して、元来た方を向く
「…っ!!」
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