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「私です」
重厚なテノールの声が響く。
わたくしはその声に驚き、手櫛で髪を整え、ガウンを更にきつく巻いた。
「ど、どうぞ」
嫌だわ……吃ってしまいましたわ!
変に思われてないかしら?
少し緊張気味に、ドアから入ってくる人物を見た。
「失礼致します」
雅は黒いスーツをきちんと着ていて、頭を下げながら中に入ってくる。
「どうしましたの?」
今度は吃らないように気をつけながら雅に問う。
日本に居る時だって、こんな夜更けに部屋を訪ねてくることなんてありませんでしたのに。
「いえ、部屋から光が漏れていましたので、まだ起きていらっしゃるのかと。よろしければ、お茶をお持ち致しますが」
雅はその名前の通り、雅やかに話す。
おばあさまのご友人にも貴族の方はいらっしゃるけど、雅ほど気品のある方は他に存じ上げません。
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