371人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
「ショータさん、今週の金曜…」
バイトあがりにショータさんの部屋に寄ってみたわけだった。
呼び鈴を押したときから、インターホンごしの声が、もう死にそうなそれだったから…どうかと思ったのだが。
どろどろと黒いアスファルトの柔らかいのみたいなのがリビングから流れだしてきそうな廊下を通ったところで帰ろうかとも思った。
入ったリビングは真っ暗で、デジタル時計の白い文字と、電子機器の電源だけが光っていた。
取り合えず、全てを無視して話を切り出す。
足の裏に根っこがはえたんじゃあないかという思い足取りで、一応キッチンにいくとショータさんはコーヒーを出してくれた。
「…金曜?」
「えぇっと…合コンって、いや、飲み会ってどうですか?」
ダメもとってヤツだ。
「……女子?男子?」
「…女子です…」
「はぁ…、ハルくん…オレ、ヒトシさんとダメだった……」
「…あー、はい…」
ヒトシさんとは30代半ばの会社経営者だ。
もちろん奥さんもいるし、小学校に上がった娘もいた。
妻とは別れるとは聞いていたが、オレ的にはほぼ、それはないだろうと思っていた。
だからやっぱりという感なのだが、この人は毎回これだ。
「だってなぁ、ハルくん……奥さんにはもう感情なんてないって言ってたんだぜ?」
ううう、っとテーブルにひれ伏す。
それが、梅雨前の出来事だった。
夏の入り際。
むしむしした寝苦しい夜が続く頃に次の恋は訪れたらしい。
「仕事アガリっすか?」
「ふふ、ごめんな、仕事中に」
23時近く。
コンビニに現れたのは上機嫌なショータさんだった。
どんと、ワインのボトルをレジに置いて。
「今日、終わったらウチ来ね?」
「…はぁ、」
察しはすぐに付いた。
ショータさんとの付き合いは2年になる。
2年の間に、この人は幾度恋をしたのだろうか。
「お祝いですか?」
「そそ、飲も飲も、」
新しい恋の門出の祝い酒。
「も少しで終わりますから、」
あとはオレの時間帯に来るのは4階の奥さんの尻に敷かれた要さんくらいだ。
こうして、ショータさんがオレをのこのこと部屋に上げるのはオレにここ2年恋人が居ないからだ。
もちろん、いくらイケメンだからといってオレはごくノーマルだからショータさんに何の感情を持つわけでもなかった。
最初のコメントを投稿しよう!