オレとショータさん

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「ハルヒコ~、おめでと」 ポンとリエさんから手渡されたのは消費期限切れ前のデザート。 もちろん店のだ。 「はあ、ありがとうございます」 「いいの、いいの、気にしないで。店長には言っとくからさ」 本来なら廃棄処分される代物だが、今日はどうやらオレの誕生日ケーキになったらしい。 正式に言えば日付をまたいだ明日なのだが。 そういえばタケシがみんなで飲みに行こうなんて言ってたな…まあ、明日までに特別一緒に過ごすひとが居なければ…つまり彼女が居なければっていう話だ。 生憎、今年も居ない。 確か去年はたまたまショータさんが1週間前に別れた彼氏と一緒に行くはずだった高級レストランに連れていってくれた。 代わりで申し訳ないと謝られたが、オレでは到底行くのも思いつかないほどの場所だったからそれなりによかったと思う。 確か、あのときは医者と付き合っていた…勿論彼女ありの若手医師だった。 あと30分ほどであがる時間だ。 タケシはこんな時間に寝るようなヤツじゃない。 終わったら電話しようかと思った時、入店の電子音に、反射的にいらっしゃいませとオレは言っていた。 来店したのは、げっそりとした顔のショータさんだった。 「おめでと、」 本当の25歳。 最初に祝ってくれたのはショータさんだった。 下で調達したのは誕生日らしくワインだとかシャンパンではなく、焼酎。 どちらかといえば飲みたい、そういう雰囲気なのは…誕生日という記念日と、ショータさんの失恋記念日が重なったからだ。 ずずっと、ショータさんが鼻を啜る。 喜ばしいことなのか、悲しいことなのか。 あの短大生は結局元サヤに戻ったらしい。 焼酎の瓶を抱きかかえるいい大人。 「まあ、飲んで」 「はい、…いんすよ?無理しなくてショータさん」 「…む、無理だなんて…」 ぐすん、と。 いい、いい、いいから。 泣きながら笑わないでください。 結局、朝方まで飲み明かして、本当の誕生祝いの酒はきつかった。 それが盛夏の出来事。
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