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夜の繁華街…燃える煌びやかなネオン、香るアルコールとニコチン、そして行き交う人、ひと、ヒト。
季節は夏……とかくこの国の夏は湿度も高く、汗どころか虫が湧き立たんばかりだ。
そんなんでタダでさえ暑さで気が触れそうなのに、いちいち群れるなよ…アレか?人混みが嫌いな俺に対する嫌がらせか?
なんて脳内で下らない独り言。
当然反応を返してくれるような観客は居ない。
「……あぁ、ウンザリだ」
思わず口から出た言葉と限り無く無気力な溜め息。
気に留める通行人は0。
因みに言うなら財布はあるが、手持ちも0…世知辛いねぇ。
歩みを止めず、スラックスの右ポケットから一枚の写真を取り出す。
そこに写っているのは1人の女性。
薄い栗色の巻き毛。
優し気な微笑。
整った顔立ちに、程良く隆起した身体。
見た目の第一印象は箱入りお嬢様。
写真を裏返す。
裏にはまるで機械が書いたような(あの女特有の)無機質な字体が並んでいる。
この女性に関する情報だ。
(……名前は綺中 栄魅(キウチ エミ)…歳は23……職業…カウンセラー………)
写真裏に記載された情報を頭の中で復唱。
そのまま視界の端に捉えていた路地を迷うこと無く左に曲がる。
目的地までそう遠くは無いが……やはり女性をおいそれと待たせるワケにもいかない。
・・・
特に依頼主は……。
なので、サクサクっと近道を選択させてもらう。
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