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教室に入ると、今日のテストが終わればもう夏休みを迎えるだけとなり、昨日まで教室内を包んでいた緊張感みたいなものは若干ながら和らいでいる。
柊と健二はそれぞれ自分の席につき教科書を広げ、テストが始まるまでの時間を使って最後の悪足掻き(ワルアガ)に掛ける。が、悪足掻き出来たのは健二だけだった。
柊は教科書を開いた瞬間、隣の席の女子に声を掛けられたのだ。
「ねぇねぇ、ひーくん!」
七月の席替えで偶然にも隣になったのは、近所に住んでいて生まれた頃から幼馴染の葛城真由(カツラギマユ)。
小柄で短くフワッとした髪型、そして小動物のような大きな目で男子からの人気も高い。
柊は声に振り向き、真由の方を見る。
「今日、学校終わったらひーくんのお家に遊びに行っても良いかな?
お母さん、今日も帝都の方へ出掛けてて……。」
幼馴染のお願いを無下にする訳にもいかないと、了承する。
と、言うよりも彼女が独りになりたくない理由を柊は知っているのだ。
彼女は自分から絶対にその話には触れないが、真由には三つ年上のエリナという姉がいた。
柊も小さい頃よく面倒を見てもらったし、真由と三人で遊ぶこともしょっちゅうだった。
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