第1章  半年遅れの参加

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月の光だけが煌々と輝く中、俺は左肩に刃物で抉られた様な斬り傷を抱え、建設途中のビルの内部をかけずり回っていた。 ビルの内部と言っても未だ鉄骨がむき出しになっていて、ビルの骨組みだけの状態だった。 時刻は午前2時。 最早大方の人間が床に伏せっている時間帯にも関わらず、俺は全力で足を動かしていた。 小心者ならすでに縮みあがっているであろう高さにある、幅が僅か30cmほどにしか満たない鉄骨の上を難なく走り抜ける。 周囲からはまるで金属同士をぶつけた様な甲高い音が響き渡る。 「もう来たか」 荒い息遣いをしながらも思わず呟いた。 カーンカーンと、一定の周期で鳴り響く音はまるで目覚まし時計の様であった。 確かにこれが只の目覚まし時計の音で、そしてこれが現実ではなく夢であって欲しいと思わなくもない。 しかし現に俺は死の危険を感じでその正体不明の者から逃げている。 「Hey, Boy!!」 英語が背後の暗闇から聞こえた。 そう思いと金属音はより一層激しく鳴り響く。 これは最早目覚まし時計というよりは工事現場の騒音に等しかった。 若しくはMRIという医療機器の発する轟音を思い出させる。 その轟音は更に周囲の空気を振動させ、他の鉄骨と共鳴し超音波に似た音を作り出していた。 激しい耳鳴りの様な感覚に襲われ、俺はバランスを失い、危うく鉄骨から落下するところだった。 15m程の高さは、落ちれば命を落とす可能性がある。 飛び降りる際、何百mも上から落下するよりも、15~20mの高さの方が恐怖を感じると聞いたことがある。 リアルな高さはリアルな緊張感を演出する。 全く持って同感だった。 今だってそうだった。 目の前に広がるのは夢ではない、現実だ。
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