第1章  半年遅れの参加

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人型だがあれは使徒、倒さなければならない敵。 ゆっくりと息を吐いた後に両足に力を込め、前方に素早く走り出す。 一歩一歩踏みしめる度に鉄骨がカンカン、と音を立てる。 踏み外すとかもう余計なことは考えない。 のは無理で、実際は一歩の度に心臓がバクバクいってるんです。 対する男の方はククリ刀をしっかりと握り、接近戦の構えを見せた。 型にはまった堂々たる構えは、明らかに訓練された者の成せるもの。 それもスポーツなんてものではない。 相手の息の根を止める方法を学び、体得した者のみ放つ独特の空気を纏っているのだ。 事前の情報では男は現在およそ50個のスキルを保有している。 このふざけた争いの中枢を担うシステム、それがスキルである。 勝負は一瞬で終わる、そう判断した俺は体勢を今のものより更に低くすることにした。 大柄な相手に対峙するにはその長いリーチを掻い潜らなければならない。 移動スピードが落ちないギリギリまで俺はその行為を行う。 男は身を屈めた俺に対してククリ刀ではなく、蹴りによる攻撃を繰り出した。 身を低くした俺に対してのククリ刀での斬撃は、繰り出した後に前かがみになってしまう。 そのため行動後の隙が出来やすく、ククリ刀自身小刀に近いため回避されやすい。 逃げ場がない鉄骨の上、蹴りが最も確実な攻撃手段だった。 しかし俺はそれを読んでいた、姿勢を低くしたのは蹴りを誘うため。 俺は待ってましたと言うように男の蹴りを避ける。 それも鉄骨の上で避けたのではない、俺の体は既に空中に投げだされていた。 元々鉄骨の上で避ける気はなかった。 男の足の太さから言って、鉄骨の上で回避できるスペースがないと分かっていたからだ。 しかもこの回避の仕方は男によっては予想外。 自ら命を投げ出す避け方に男の判断は遅れる。 俺はそのタイミングでスキル「エアスライド」を発動する。 靴の裏から青い粒子状の物質が噴射され、俺は空中で進行方向を変え、男の背後の鉄骨に着地する。 そして一本立ちになっている相手の残りの足を払うように蹴る。 男は体勢を崩し、鉄骨から落下しそうになった。 だがそこで男もスキルを発動。 崩れた体勢を立て直す「リカバリング」によって男は何事もなかったように鉄骨に直立する。 しかしその最中でも俺の動きは止まっていなかった。
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