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 椎名はイオから受け取ろうとしたバスケットを危うく落としかけた。  両手でバスケットを抱く。 「王妃様、そのっ」  はきはきした物言いのリアンナらしくない、もどかしげな口調に、椎名はリアンナの言いたいことを察した。 「私がイオ様と食事を取るのは、風聞に悪いんですか?」 「あ、当たり前ですっ。王妃様は陛下の王妃様なんですよっ!」 「夫の弟でも?」  家族なのだから、多目に見てくれないだろうか。  主人と同じ席に着けないと、侍女たちに拒否され、椎名と食事してくれるのはイオしかいなかった。悲しいことに。  いくらお城の料理が美味しくても一人で食べると、味気なく。普段家族揃って食べていた椎名はなおのこと、一人の食卓に寂しさを感じていたのだった。  だから、イオが気紛れとはいえ食事に付き合ってくれて、内心喜んでいた。 「弟でも誰でも駄目ですっ」 「そうですか……」  しゅんとした椎名に、罪悪感を感じたリアンナだが譲れなかった。  椎名の身分を案じるなら、他者が付け入る隙は減らさなければならない。  リアンナは椎名の侍女なのだ。 「我が儘を言いました。ごめんなさい」  椎名も子どもではない。自分の行動が周りにどうとられるかくらい、わかる。  王弟と親しい。それだけで、周りはあることないことを邪推する。 ましてや椎名は、一国の王妃。  イサナのためにも、醜聞は避けなければならない。  残念がって肩を落とす椎名に、ここぞとばかりにリアンナは代案をあげた。 「なので。寂しいなら、陛下に仰って下さいっ! 甘えて下さい!」 「陛下に?」  一日一回も顔を会わさない夫に、一緒に食事をしろとは、無謀である。  神出鬼没な王弟とは、最低一日一回顔を合わせるが、イサナとはもう一カ月近く声さえ聞いていない。  もはや、冷めきった夫婦仲である。最初から温まってもいなかったが。 「いくらなんでも無理ですよ。陛下はお忙しいし、私に興味ないですし」  椎名はこれはこれでよかったのだろうとも思う。  もし万が一にでも椎名がイサナにお熱だったら、この放置は辛すぎる。 「いたな、過去に。陛下に言い寄りまくって嫌われた衝撃で、首吊った女が」  話の渦中の人物でありながら、傍観に徹していたイオが、物騒な発言をした。
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