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お茶の香りが立ち上る。
カートにお茶のセットを載せ、戻ってきたリアンナが眉を釣り上げた。
「……王妃様」
パンに木苺ジャムを薄く塗っている椎名に、リアンナは目で訴える。
ちらちら、イオを睨みながら。
彼女が言いたいのは、イオと一緒に食事をしないでなのだが、椎名には通じていなさそうだった。
手元のパンに何かあるのかと眺め、食べる手順を間違えたのかなど、リアンナの言わんことから逸れている。
やきもきしたリアンナが、お茶を放り出し拳を握り締めた。
「王妃さまは陛下の王妃なんですっ」
椎名はそれで先程注意を受けたのを思い出す。
「ああ。そうでしたねー」
「そうでしたね、じゃありません! 妙な噂を流されたらどうするんです!」
何度言ってもわからないのだから。
「王妃様は物分かりのいいのだか、悪いのだかわからないですっ」
リアンナは憤慨する。
「引きこもっている私は兎も角、リアンナやお二人に迷惑がかかりますね」
人の噂も七十五日。二カ月と二週間、長いと言えば長いが、あっという間に一カ月経ったのだし、気長に待てる。
しかし、いくら椎名でもリアンナやイオ、仮にも夫が周囲から白い目を向けられるのは、無視できない。
「それより、女なら年食うのを気にするだろ」
イオが口を挟む。
女性に年の話は禁句。
男から口にするなどもってのほかなのだが、言われた椎名は気にした風ではなかった。
「そうですね。二十代を過ぎてからの時の流れは早くて。うかうかしていたら、三十路になりそうですねー」
既に二十五歳。アラサーである。
あっけらかんとした椎名に、リアンナは深い溜め息を吐いた。
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