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椎名の場合、自分の身において考えられる。
二十五歳の誕生日も、しばらく恋人のいない生活を送っていた椎名は家族と過ごした。
切り分けたケーキをめぐり、小さな弟たちが一番大きいのがいいと、取り合いっこをしていたのが、昨日のことのように思い出される。
なにも伝えずにアールヴェースに来てしまった。きっと心配しているだろう。
「…………」
家族が恋しくなったのか黙りこくってしまった椎名に、イオは面白くなさそうにクッションに顔を埋めた。
リアンナが五月蝿いので、椎名に言われる前に、部屋を出て行こうと思ったのに、その気もなくなった。
とげのある声で椎名を呼ぶ。
「シーナ」
「あ、はい。ごめんなさい」
「早く食べろよ。片付かないだろ」
もちろん、イオは片付けない。
持ってきたバスケットも、予め厨房に用意させていたものをだった。
「イオ様? 何か怒ってます?」
「怒ってなんかいないだろ」
そうは言うが、不機嫌そうだ。クッションに顔を埋め、半分だけ顔を上げ、椎名を見ている。
椎名は、首を捻った。
イオを怒らせてしまうことを考えてしまったのだろうか。
しかし、追求しても話してくれそうにはないのは、勘でわかる。気になりはしたが、食事に戻る。
(もしかして、追い払われると思って怒っていたのかしら?)
「勘違いするな」
直ぐに、否定が返ってきた。
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