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残された椎名とイオ。
イオと二人きりがどうたかと口うるさい割には、リアンナは放任している。
「侍女なら、自分の仕える王妃の貞操を第一に考えないとな」
クッションに片肘をつき、イオが口角を歪め、笑う。
子どもらしさが消え、やけに艶めかしい。
椎名は、手に持っていた木苺ジャムを塗ってしまったパンをかじった。
甘酸っぱい味が口の中に広がる。
ひっそり、溜め息を吐いた。
「イオ様」
ソファーにいたイオが、足音もなく椎名の背中に忍び寄り、腕を椎名の首に回す。やんわり、抱き締めるように。
椎名は、こういう冗談やからかいは好きではない。
鋭く名前を呼ぶが、イオは歯牙にもかけず喉で笑う。
ドレスから覗いた首筋に、イオの吐息がかかる。
「イオ様」
「ベッドに潜り込んでも怒らないだろ?」
「じゃれられているなら構いませんが、こういう冗談やからかいは好きではありません」
「俺が年下だから?」
イオは、離れない。
どこか悪戯をする子どものようで、どこか人を試すように。聞いてくる。
一カ月の付き合いで、このやり取りは一度だけあった。
イオと初めて逢った時だった。
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