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 イサナに連れられてきた椎名を、警戒心剥き出しで、睨んでいた。  あれがどうしてこうなった。懐かれた理由に、見当がつかない。 「イオ様。お化粧が顔に付きますよ」 「……香水は嫌だと言ったろ」  イオは顔をひっつけ、眉をしかめる。 「嫌だと言われても、仕方ないんですってば。王妃の嗜みやら何やらで、毎回付けられちゃうんですから」 「拒め。近づけないだろ」 「イオ様は十分近づいてます」 (リアンナ。早く帰ってきて……くれたらくれたで困りものですかねー)  はたから見たら、浮気現場以外のなにものでもない。  リアンナが泡を吹いて倒れかねない。 「じゃなくてですね。イオ様、悪戯にもほどがありますよ」  椎名はイオの手を掴む。  侍女に整えて貰った爪は薄く色付いているだけでなく、ささやかに長い。 「抓りますよ?」  抓る真似をする。  イオはくすくす笑い、腕を離した。  降参と手を掲げてはいる。が、本当に椎名が抓るとは思っていない。  椎名もそんなつもりはなかった。  イオと適度な境界線を引いたのだ。  独身のイオが、椎名のせいで、婚期を逃されても困る。  イオとて、今は椎名をからかって遊んでいても、好きな相手が出来た時に、自分が困る羽目になるではないか。 「イオ様を好きなお嬢様方に、睨まれるのはごめんです」  女の嫉妬は怖いのだから。 「……好きねぇ? 俺の地位と顔だろ」  不信感がたっぷり詰まった声だった。  椎名は首を回し、イオを見た。  イオは荒波に揉まれ、人生を悟ってしまった人間のような顔をしていた。 「女も男も気持ち悪い」  人間否定だ。  椎名はかけるべき言葉が思い浮かばず、イオの翡翠の瞳を見詰める。
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