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椎名にも、心を知る術があれば、イオの気持ちも理解できるのだろうか。
不可能なことを考えてしまう。
イオだけが、人の心を知る。だが、誰にも彼の気持ちは理解できない。
「人の気持ちなんて、一生知ることはできないままでいいんだよ」
椎名の心を読んだイオが言う。
人の気持ちは知らない方がいい。
人の心には善も悪もない交ぜになっている。
当たり前のことでも、イオが口にするから、その痛切な想いが伝わってくる。
「知っていいことなんてない」
漏らされた言葉が、椎名の心に染み込む。
可哀想とか不運だとか、そんな気持ちがないかと聞かれれば、嘘になる。
ただ、安易な言葉はかけられない。
椎名は口を開こうとし、閉じた。
「ああ。別に慰めはいらない。どうにもならないだろ。馬鹿なこと言った」
イオは素っ気なく笑う。こんな力を持って生まれたことは、遠い昔に、諦めたことだというのに。
椎名に哀れまれるのが嫌だった。
気にかけては欲しい。
哀れまれるのは嫌。
相反する想いを抱きながらも、イオは椎名の心を読まないようにしたが、否が応でも、イオの力は他人の心を移す。
「私が伝えたいのは、可哀想とかじゃなくて。悲しいのでもなくて、ええと」
困ったように椎名が手を伸ばした。
イオは自分が何をされたか、理解に遅れた。
頭を撫でられている。
さらりと髪を指で梳かれ、耳に指先が触れる。
「シーナは甘いな」
「心配しただけです」
心配だ心配。
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