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大人の色香には一味足りなくて、だけど少女の瑞々しさは失いつつあり。
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寝返りを打った椎名の頬に、さらさらした髪が触れた。
隣に温かい体温を感じる。
五つになった弟は怖がりで、よく椎名のベッドに潜り込む。
頭を撫でようとしたら、その手を取られた。
冷たい手の感触に、目を開けた。
豪奢な天蓋の付いたベッドが、椎名の視界に飛び込んできた。
「……どこでしたっけ」
頭が現実に追いつかない。
「シーナは胸以外にも頭も足りないな」
胸は腹の肉を寄せれば谷間くらいは作れる。
籠もった声の出どころを探し、椎名はまっ平らに近い、自分の胸を隠しているシルクの掛布を捲った。
小柄な少年が、丸くなっている。
彼はイオ・アールヴェース。椎名の弟には弟だが、義理の弟に当たる。
天蓋の垂れ布から薄く注ぐ朝日に照らされた顔は、あどけなさを残しながらも精巧な人形のように整い、少しつり目がちな瞳は翡翠のように艶めく。
代わって椎名は平凡な顔。しかも寝起きで緩い顔がいつも以上に締まらない。
「朝から何をなさってるんですか?」
「二度寝。いいだろ別に」
小言は聞きたくないと、イオは両手で耳を塞ぎ、椎名の膝に頭を乗せた。金色の髪が薄い夜着に包まれた太股に触れて擽ったい。
椎名は困った顔はしても、イオを追い出すことはしなかった。
イオは十四歳で、椎名の上の弟と同じくらい。
甘えられれば、つい甘かしてしまう。
だが、自分とイオの立場では、それはよくない。
「まるで不倫だな」
「なに言ってるんですか」
イオはよく椎名をからかう。
「爺たち相手は疲れるんだよ」
「……お仕事、忙しいですね」
育ち盛りの時期に、体を酷使するのはよくない。
「俺が椎名と寝ている間も、陛下は執務室に籠もって書類崩ししてたけどな」
地位が高くなれば責任も仕事量も増えるのは常でも、行き過ぎ感は否めない。
「一人の力なんてたかがしれてますのに。過労死しますよ」
「大国の王相手に、たかがって、シーナは怖いもの知らずだな」
確かに彼は完全無欠などありはしないのに、そう思わせる自信と確固たる力を持っているように、椎名にも見えた。
一カ月音信不通な夫の顔を思い出していたら、イオが身を乗り出してきた。
「なら、陛下を慰めに行けば? 七十二番目の王妃様」
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