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●●●●  大人の色香には一味足りなくて、だけど少女の瑞々しさは失いつつあり。 ●●●●  寝返りを打った椎名の頬に、さらさらした髪が触れた。  隣に温かい体温を感じる。  五つになった弟は怖がりで、よく椎名のベッドに潜り込む。  頭を撫でようとしたら、その手を取られた。  冷たい手の感触に、目を開けた。  豪奢な天蓋の付いたベッドが、椎名の視界に飛び込んできた。 「……どこでしたっけ」  頭が現実に追いつかない。 「シーナは胸以外にも頭も足りないな」  胸は腹の肉を寄せれば谷間くらいは作れる。  籠もった声の出どころを探し、椎名はまっ平らに近い、自分の胸を隠しているシルクの掛布を捲った。  小柄な少年が、丸くなっている。  彼はイオ・アールヴェース。椎名の弟には弟だが、義理の弟に当たる。  天蓋の垂れ布から薄く注ぐ朝日に照らされた顔は、あどけなさを残しながらも精巧な人形のように整い、少しつり目がちな瞳は翡翠のように艶めく。  代わって椎名は平凡な顔。しかも寝起きで緩い顔がいつも以上に締まらない。 「朝から何をなさってるんですか?」 「二度寝。いいだろ別に」  小言は聞きたくないと、イオは両手で耳を塞ぎ、椎名の膝に頭を乗せた。金色の髪が薄い夜着に包まれた太股に触れて擽ったい。  椎名は困った顔はしても、イオを追い出すことはしなかった。  イオは十四歳で、椎名の上の弟と同じくらい。  甘えられれば、つい甘かしてしまう。  だが、自分とイオの立場では、それはよくない。 「まるで不倫だな」 「なに言ってるんですか」  イオはよく椎名をからかう。 「爺たち相手は疲れるんだよ」 「……お仕事、忙しいですね」  育ち盛りの時期に、体を酷使するのはよくない。 「俺が椎名と寝ている間も、陛下は執務室に籠もって書類崩ししてたけどな」  地位が高くなれば責任も仕事量も増えるのは常でも、行き過ぎ感は否めない。 「一人の力なんてたかがしれてますのに。過労死しますよ」 「大国の王相手に、たかがって、シーナは怖いもの知らずだな」  確かに彼は完全無欠などありはしないのに、そう思わせる自信と確固たる力を持っているように、椎名にも見えた。  一カ月音信不通な夫の顔を思い出していたら、イオが身を乗り出してきた。 「なら、陛下を慰めに行けば? 七十二番目の王妃様」
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